第三回シンポジウムの報告

去る9月29日早稲田大学にて第三回シンポジウムが開催されました。

プログラムは以下の通りです。

全体のテーマ:「中世・ルネサンスにおける「ローマの再生」」
司会:益田朋幸(早稲田大学文学学術院教授)
報告:
   大月康弘(一橋大学経済学研究科教授)
  「中世キリスト教世界におけるローマ理念の再生─9~10世紀の国際関係から─」

   児嶋由枝(上智大学文学部准教授)
  「イタリア中世後期美術における神聖ローマ皇帝図像─フィデンツァとバルレッタの例─」

   加藤守通(上智大学総合人間科学部教授)
  「レオナルド・ブルーニによるキケロの再発見」

コメント:甚野尚志(早稲田大学文学学術院教授)

大月氏は、ザクセン朝のオットー1世の名代としてビザンツ帝国に赴いた、クレモナの司教リウトプランドが残した『コンスタンティノープル使節記』(968年)において、「ローマ」という言葉がどのように記述されているかを詳細な史料とともに分析された。イタリア半島における領土問題をかかえていた960年代の地中海世界の情勢のもと、ローマは『使節記』の随所に実際の都市名として現れている。使節の目的はオットー2世と皇女テオファノとの婚姻であり、交渉が難航するなかで、「ローマ人」というに名称にまつわるリウトプランドの赤裸々な感情も吐露された。政治的、倫理的に混乱した同時代のローマを解放したオットーを「ローマ人の皇帝」と認識していたリウトプラントであるが、同時期にコンスタンティノープルに来た教皇ヨハネスの使節が、オットーを「ローマ人の皇帝」と呼び、ニケフォロスを「ギリシア人の皇帝」と呼んでビザンツ側を激昂させた件に及んでは、ニケフォロスに対して「ローマ人の皇帝」と呼称し直している。リウトプランドの弁証は常にコンスタンティヌス帝の遷都時に遡り、その記述の各所からはローマ帝国と皇帝、都市ローマへの理念を読み取ることができる。
  

児嶋氏は、12世紀後半に建造されたフィデンツァ大聖堂のファサードに残るカール大帝や古代のローマ皇帝像をはじめとする皇帝の肖像に、同時代の政治的状況と古代の復興理念を重ねて解釈された。フィデンツァは皇帝派の都市であり、大聖堂造営の契機となったのはフリードリヒ1世による1162年の地所の追認であった。1165年に列聖されたカール大帝を司教杖を持たせた図像で表し、その権威を改めて強調することで、教皇から独立し神にから直接に権威を授けられた「聖なる」ローマ帝国の皇帝権を確立する狙いがあった。また、同聖堂ファサードに古式をとどめて3度表されたマギの図像にも政治的な背景が伺える。1164年にマギの聖骸がフリードリヒ1世によってミラノからケルンにもたらされ、皇帝は戴冠式の際にカール大帝の聖櫃、聖母マリアの聖櫃を収めるアーヘン宮廷礼拝堂からケルンに向かって東へ巡礼することになるが、これはマギの礼拝の再現と解釈することができる。三つの王国を治めるフリードリヒ2世はマギになぞらえられるなど、王権と皇帝権の称揚が図られていたのである。加えて、古代ローマの皇帝像を模したバルレッタのフリードリヒ2世の胸像やカプア門の彫像様式には明確な古代趣味が伺われる。この時代がイタリア中世後期においての古代復帰への契機となった可能性は否めないだろう。

加藤氏は、レオナルド・ブルーニ(1369-1444)の著作において14-15世紀に再発見されたキケロがどのように受容されたか、哲学史的、社会的な背景を交えながら紹介された。1345年キケロの書簡集を発見したペトラルカは、弁論の音楽的なレトリックに惹かれながらも、哲学者の身で政治的な活動を行ったキケロに失望している。しかし15世紀前半、ヒューマニストが政治に携わるようになり、独裁制と共和制の抗争を想起させるフィレンツェとミラノの抗争が起こり、キケロの『弁論家論』の完全な草稿が1421年にイタリアのロディで発見されると、キケロの観想的生と実践的生の二つを統合させる生き様が再評価された。ブルーニは「閑暇を享受し学問に従事した哲学者以上に物を書き、他方、彼が学問と著作にもっとも従事していたときに、彼は、文学的活動に関わりを持たない人よりも多くのことを成し遂げた」とキケロを評している。キケロ自身も知識と雄弁とが統合されることを理想とし、ブルーニもまたソクラテス以来分断されていた「舌と心」を新しいヒューマニズムの教養において再統合することを提唱した。ブルーニが『ダンテ伝』においてダンテを「市民的な会話をなおざりにしなかった」と評していたことからも、ブルーニが「人間性」「教養」「社交性」の三点を含むキケロのhumanitas概念の継承者でもあったことも伺えるのである。



報告ののち討論の席が設けられ、参加者の方々からの質疑応答を含めて、活発な議論がなされたことを合わせてお知らせいたします。
ご多忙の折、ご参加いただきました皆さまに心よりお礼申し上げます。           (文責:毛塚)

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